音楽備忘録74 寿命 編曲耳!?編Ⅱ
前回余程注意してないと奏者は訓練がされる程人に備わる習慣が災いして、聴者耳を無意識下に損ねてしまうのを指摘させて貰った。
俺自身比較的早い時期から偶然アレンジを担当したお陰で難を逃れたとも書いたが、後から思い出したのがあるのでそれから行かせて頂こう。
楽器を手掛ける様になって是又かなり早期からオリジナルも演っていたが、中には作者と人間的に遠い人との場合もあった。
コミ障と迄は行かなくもその頃はまだ創作現場体験も多く無いし、実績からの信用だって全く無い。
なので作れても「作らせて貰えない」場合もあって、半分不貞腐れつつエゴフルな奏者になってしまった事もあった。
そんな時は得てして上手く行かないし、少ないにしてもゼロでは無い実力を発揮し損ねていたもんだった。
そして最悪なのはそれを相手のせいと思い込んだりしてた処で、確かにそう云うろくでなしも居ただろうが全てでは無かったかもと反省している。
これが今思い返すと正に本案件たる全体耳を失ってたのが最大原因と思われ、全体としてどうなのかの意識が欠けてしまってた気がしてならない。
何処をどう担当したって自分は自分って思ってたから、立場に依って聴き方が変わってたのが自覚出来なかったのだ。
結局偶然だけで全て乗り切れる筈も無く、やはり意識的に使い分けられる様にして行かないと駄目ってもんみたいだ。
そして中には不遜な俺よりもっと酷いのも居て、不適切なエゴの為につまづき招かれざる客状態となってしまった奴も居た。
俺がプロになって暫く経ってから全員プロの者が集って製作にあたった時で、そ奴は音に対する想像力がとても乏しい癖に仕切りたがる困ったちゃんだった。
今だと偏見と言われるそうだが当時そんなナルシス君てば、リードギタリストと相場は決まっていた。
これについても今分析してみると、恐らくRock Bandに慣れて無いとかどういうものなのかの理解が足りなかったのが災いしてたんだと考えられる。
一般的に楽器群の中でギターソロだけ毎度出て来るからかもだが、確かに目立つし格好良く決めてくれんと皆が困りはする場所だ。
だが曲が無けりゃそもそも弾けないし歌物曲なら歌が主役、しかもイントロがギターソロのなんて滅多に無い。
だから演者身内視点だと上級国民なのかも知れんが、聴者が曲冒頭から高頻度で耳にする音とは限らない。
視覚的にもギター氏よりゃ目立たないだろうが、それ故実際沢山聴いてそのアーティスト集団の評価の基板になるのは実はリズム隊なのである。
現に過去例の多くはリズムが命のジャンルだと、リズム隊が水準以下で大成した試しが無い。
依って自分がどのパートを担当してるにせよ、編曲では先ず「伴奏を格好良くする」のがベーシックな仕事との認識が必須なのだ。
でそのプロジェクトは歌物で以前からの友人が作者兼リードボーカル、彼の当時の彼女と俺がコーラスも担当していた。
ポピュラー系の楽曲だったから正規の思考をすれば「作って歌う人」が絶対的権力者であり、しかも友人と彼女のデュオ+バックBandって編成だった。
だが嫌な話しだがどうも政治的序列もあったらしく、件のナルシス君が一際張り切ってしゃしゃり出たのである。
実はこの仕事が俺に来る前に俺等共通の友人がトライしてたが楽曲を無視した上その横暴な態度に辟易して中途離脱し、俺に半ば「敵討ち」を懇願されて参加したのだった。
して問題となったのは当時流行りのユーロビート調の曲のギターソロ部で、ロカビリー風のしかもチープなフレーズをBassに弾け(勿論俺に)と言い出しやがった。😅
どうすればそんなミスマッチが成功すると勘違いしたのか全く分からんが、仲間の佳作をそんなので台無しには出来んからのらりくらりとかわしてやった。
そんなの合わないし無興味だからかホントは俺の当時の奏力不足かは定かじゃ無いが、一所懸命に弾こうとしてるフリをしてたら少しは変なのに気付いたのか撤回しやがったのだった。
それがキッカケで悪の交渉力が俺に付いたかこれも分らんが、兎に角最大の危機はどうにか回避出来たのである。
その後暫くの間は仲間内でアイツ最悪ぅ~とか只言い合ってたが、今になってみると随分可哀想な奴だったんだと思えて来た。
良いフレーズを思い付ける人だと全く目立たずにコッソリ弾いてても、「うわっ何今の、もっとちゃんと聴かせて」なんて放っといても何時も自然となっちまうもんだからねぇ。
そこ迄行かずともアイデア提供を促されてちっとも最高では無いにしても、曲に合ったフレーズが出せれば取敢えずは採用されるもんだ。
恐らくこのナルシス君は幾らそんな普通のやり方で頑張っても落選ばかりだったのを、相手が悪いとしか考えられなかった反動だったのだと思われる。
自分に瑕疵が無く周囲が駄目な場合それなら駄目をクビにして、その部分も自分で演ってしまえば良い。
そうして先にそれなりの評価を得る方法もあるが、プロでそれを知らない筈は無い。
実際俺は作曲を始めたのが後発だったからその時はまだアマだったが、実績(作品)無しで評価しろってなそりゃ無理かと悟ってどんどん作って録ってみたもんだ。
それが彼の場合無い=作れない→無才能若しくは努力不足、或はやり方を間違えてて完成させられなかった。
そんなの以外にあんな風になってしまう原因が無く、範囲の狭過ぎる奏者耳が大いに疑われるのだ。
何せBassに弾かそうとするフレーズを、自らのGuitarでしか試奏・確認してなかったっけね。
それに引替えアマチュアだが才能溢れる作曲家の別の親友はそんな時、特に彼自身が弾けない物はこれから弾いて貰おうと思ってる本人に最初の段階から試して貰って尚且つ相談し乍ら作り込んでましたわ。
この親友の手法だと各楽器の担当者つまりは専門家の知見も自然と知れるので、自分で弾けなくてもその楽器事情に明るくなって行く。
それ自体ももう才能なのかも知れんがチームワークの利点をある程度分かってれば、件のナルシス君みたいに踏み外しはしない筈だ。
これが編曲耳を他人の力も借りて育める1つの方法で、孤軍奮闘したり極度に意識しなくても済む。
そもそも編曲耳も今回のお題では「耳の偏り」を避ける1手段として紹介してる訳で、その他のどんな手でも有効性が認められるなら各々身近な処から工夫をしてみりゃOKだ。
<つづく>
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