多重録音備忘録Ⅱ⑲ 電子素子速度と音の関係Ⅲ
本線復帰して速度案件へ戻るが、素子動作開始時の性質が急激だと音に悪さをする件の続きだ。
このある意味逆転現象はMicのダイナミックとコンデンサの関係と似た処があり、今回はそこから攻めてこう。
この比較ではダイナミックが真空管等でコンデンサが高速半導体に対応してるが、全体性能では後者優位だが収音したアタック部の純度では前者が優位だった。
理論的波形の変形度では従って後者の方が全体では少なく、それが広帯域だとか微小音に対する感度の高さとなって表れている。
だが含有量は少なくても後者のはアタック部の頭にその弱点が集中しており、その変形のさせ方が極端なのである。
故にダイナミックのリニアリティが不完全でそれが全体に及んでいても、極端な改変が無い部分で音のシルエットが別物になったりはせずに済んでいるのだ。
但しこれが顕著に表れるのは音源とMicがかなり近い場合で、ここでは最近頻出のエアクッション「後」であるとMic到達時点でアタック部がマイルドとなっているのであまり問題にならなくなる。
けれど離れるとコンデンサは高感度故録った場所の響き等もタップリしっかり拾うので、録った場所に左右されない音源だけの音が欲しい場合はちょいと厳しくなる。
因みに開発者はコンデンサの弱点を当然分かっていたので真空管を半導体へ置き換えた際、なるべく電流増幅型のトランジスタは避け電圧増幅型のFETを選んで欠点の拡大を防いでいる。
それでも素子の耐電圧が球は大体300V位あるのがFETでは50V位しか無い為、電源電圧の低い分ダイナミックレンジが狭まったりしたので球のも生き残ってるのである。
それともう1つ重要なのが各素子に対する基本的な回路構成の違いで、これも音響電子回路理論と楽器音響理論では真っ向から対立してる部分があるのだ。
これもかなり以前に触れたが「負帰還回路」って技が争点で、一般理論と電気的性能面では使った方が良い技術だ。
だが出力からその一部を入力へ戻して回路動作を修正するものなので必ず「修正遅れ」が生じ、音色の質を一切改変したくない場合にはとても不向きな方式なのだ。
それで楽器系に特化させるのにトランジスタでもわざと極単純な回路構成にしてるのがあるが、音色面には実際ある程度効果があるがかなり音響的にはチープな性能となってしまう。
この原因も素子性質の不一致の他に前出電源電圧の低さが災いしてて、歪み易くなるか雑音が割と目立つ様になるかの苦しいせめぎ合いとなっている。
小型化は省エネ等にも直結してるのでその点では素晴らしいが、小さくして全く何の不利も生じてない訳では無かったのだ。
音楽(楽器)ってのは一面でかなり特殊性のある世界で、例えば物凄く立ってられない程揺れるトラックの荷台ではマトモに演奏出来なかったりするわな。
これを思えば他の多くの用途よりは振動に弱くたって構わないし、スマホみたいに肌身離さず常時携行しはせんのだからそこ迄小さく軽くなくても大して困らないのだ。
省エネ・高音質等が不要ではないけれど、最終的には唯一点「絶対に譲れない」或は譲るべきではない使命があるのだ。
演ったままとか得られるべき音色やニュアンスを出せるのがそれで、どんなにノイズレスで綺麗だろうと求めた音にならないんじゃ使い物にならんのである。
次回楽器自体の作り等へも言及するが技術が進歩し過ぎたか安易に取入れ過ぎたか、物理的・電気的に完全なのが楽器としてはマイナスに作用するのが近年では殆どとなっている様だ。
正確に言えば技術の適用法を間違えてるだけなんだと思うが、まだ今は機械化し過ぎた楽器ばかりでは無いので選び方次第で救いの道は残っている。
<続>
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