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2018年7月22日 (日)

エレキギター修理の話し①

割と原始的ではあるが意外と知られてない、或は忘れられたコツというか注意点を挙げて行こう。
最近拙ブログ更新頻度低下の原因は預かり修理のこれで、俺も危うく忘れてしまいそうなのを色々思い出した。
本邦の特に一般人ではエレキ楽器を永く継続使用する者が少ないせいか、経験してたらどうって事の無い知識が意外とマイナーなままと感じている。

今回のケースはFender系或はStratcaster等で起こりがちな故障で、厳しい表現をすれば誤った調整による破壊とも言えるものだ。
何処迄を使用者のせいにするかは論の分かれる処だが、メーカー側としては弱点を晒したくないせいか注意書きが不十分だとは思っていた。
量産品では使用者特化率が低いんだから単に弄るなと言うより、本来は弄るなら「こうしろ」と示すのが適切だと思う。

第1点はペグで多くのロートマチックタイプの場合。

1


図の左2つがそれで中が壊れた状態とその場所、一番右は固さ調節のないタイプの例。

左のはクリーム色とオレンジ色の本体部分が一体鋳造(ダイキャスト)になってて、ピンクのワッシャと特殊6角ネジでネックヘッドを挟み込む様になっている。
左3番目は90°向きを変えて眺めた様子で転動防止用のツノ(緑)が付いてるが、俺言い親切設計のだと右2番目の様にそれが普通のネジ留めになっている。
右のの場合はどれも大抵はネックヘッド裏側から小ネジで固定され、表側のシャフトの支えは打込み式だ。

理屈としてはこの「ツノだけ式」で足りる筈だが、現実はそう甘くない様で近年では殆ど右2番目のタイプのしか売られてない様だ。
それは相手が木だからでツノの入る穴が経年の圧力で拡がってしまったり、気候による収縮で隙間が生じて固定が甘くなったりする。
僅かでも弦ポスト回転方向へ動ける様になってしまうと、それで特殊6角ネジがどんどん緩んでしまうのだ。

左のタイプは例によって機械物理的には優秀な方法で、「壊れなければ」正確に精度が維持出来るし取付方法も一見スマートでよろしい。

だが木は温度・湿度で金属より伸び縮みがあるが、左の方式では縮んだ時に原理的に固定が緩む欠点も持っている。
一方右の方式は一方向からだけの固定なので気分的には若干心細いが、「木を挟んで無い」のでこの理由で
緩む欠点は無い。

どんな方式だろうと何処かが緩んだりすればチューニングに影響が出るが、複数箇所で固定してたら全部が緩まなければ影響は小さい。
ので奏者が気になる事は少なそうだが左の方式で1点締めのだと、スグに気付かれ締め様とされる。
しかもしょっちゅう簡単に緩まれては敵わないから強めにされるが、それで壊してしまうのだ。


メカ的に格好イイ鋳物も小ささの関係もあって強度が不十分で、一体型ゆえに柔軟性も殆ど無いからだ。
普通のネジやボルトナットを締める感覚が通用しない程脆弱なのは、構造的欠陥と見做せなくも無い。
俺経験ではネック材がマホガニー等柔らかければ左程でもないが、メイプル等堅めだと木にも柔軟性が少ないので不具合を起こし易い模様。

第2点はピックアップでポールピースにコイルが直接巻かれてる場合。

Pickup_2


図説は上段が直巻きタイプで下段はコイルはボビンに巻かれてる例、左から順に小さくなる○は弦の積り。
上段左3つが主なポールピースの位置例で、一番右は不完全だが各弦の感度調整を試みた状況だ。
上図上段のは全てポールピース自体がアルニコ磁石で、Fender式合理的シングルピックアップ。

これも製造上合理的だし空間効率が良く、コストや感度等に有効な手段だ。
だが是又使用者側への融通性が低く、使用弦を違うのにした時等にあまり美味しくないシステムだ。
生音でなら未だしも高ゲインで歪ませてる場合等に「感度不一致」は気になり、多くは演奏の都合上何とかしたくなる。

厳密には磁石の長さが違うので高さだけ弄っても仕方無いんだが、実際弦との距離の影響は無視出来ないレベルではある。
それでポールピースの高さを調整するのだが、余程運が良くない限りは極細のコイルの線を切ってしまうのだ。
ここで厄介なのはハイインピーダンス仕様な処で、切断面が近接してると一応音が出てしまうので
断線してるのに気付き辛い点だ。

実際はパワー低下・音質変化等色々な変化が出てるんだが、それが磁石と弦の距離変化のせいと区別が付き難い。
それもあってホントは失敗してるのに成功したと誤解し易く、つい「使える方法」と思い込まれてしまう。
しかし振動や気候の変化等で
切断部の状態が僅かに変っただけでも、「切れてる」ので急に非力になったりして後で慌てる羽目に陥る。

楽器奏者も専門家になって来ると自分の道具が人任せだけでは済まなくなって来るが、その場合は「それ用の知識が必要」なのがちっとも周知されてない事からの悲劇とも言えよう。
今迄の工学とこれだけ相容れない部分が多いとなると、海外事情等は存ぜぬがそろそろ「楽器工学」として確立させるべき気がする。

※ペグ画像改良に伴い
追記 2018/7/23

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